先月の終わり頃にNHKのプロフェッショナル仕事の流儀を偶然目にしました。プロフェッショナル仕事の流儀といえば、スガシカオのProgressが流れだす”あの”番組。僕は羽生棋士の特集のときは必ず見るのですが、他はあまり気にして観ていません。森内棋士との戦いは定番中の定番。本当に面白い。

そしてある日、プロフェッショナルが偶然やっていたので見てみると、そこには一人女性が出演されていました。「興味があるやつ」だとは感じなかったのですが、僕は気が付くと真剣に観ていました。

そこには言葉で世界を繋ぐ、世界を動かすドラマがありました。

同時通訳は”格闘技”

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先進国首脳が集うサミット、貿易交渉や軍縮会議、そして2020年東京オリンピック招致に至るまで、過去40年以上日本の外交を支えてきた通訳・長井鞠子。発言を聞くと同時に、理解→分析→翻訳→発声というプロセスをわずか1~2秒の間におこなう「同時通訳」、その最高峰と言われるプロ中のプロだ。長井が話す言葉は、通訳にありがちなたどたどしさとは一切無縁。話者が話すとほぼ同時に、まるでその発言者が話しているかのような自然な言葉で、日本語を英語に、英語を日本語に、個性やニュアンスまで正確に再現してみせる。あらゆる分野をこなすオールラウンダーであり、なおかつ圧倒的に分かりやすいその同時通訳の腕は、歴代首相をはじめ、世界中のVIPから指名を集めてきた。
長井は「同時通訳」の仕事を、“格闘技”に例える。「そのときその場で発言されたものに瞬間的にスパッと答えるという意味で“格闘技”、真剣勝負です。あなたが言ったことはちゃんと受けとめて、相手に渡してみせるから、どんといらっしゃいと思っている」。
全身全霊をささげて、話し手の思いを伝えていく長井。長井は毎回通訳ブースから話し手をぐっと見据え、その熱意が乗り移ったように身振り手振りを交えて通訳していく。

言葉を超えて、人をつなぐ/会議通訳者・長井鞠子(ながい まりこ) … 長井は「同時通訳」の仕事を、“格闘技”に例える。

理解→分析→翻訳→発声というプロセスをわずか1~2秒の間におこなう「同時通訳」、その最高峰と言われるプロ中のプロ。

会話の個性や意味は千差万別

僕らが母国語として日本語を操る中でも、それぞれに個性ってありませんか?

この人はしゃべり方が柔らかいなぁ、丁寧だなぁ、ノリがいいな、少し雑だな・・など色々な人が世の中には沢山います。

つまり正確や人柄が個性となって話し方に出るわけです。

永井さんは英語が母国語の人でないのに、個性のある英語のニュアンスが出せるなんて驚きました。最適な言葉を一瞬で選び通訳するという離れ業をこなすプロフェショナル。

準備と努力は裏切らない

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通訳になって47年の長井さんはいまや大ベテランとなり、あらゆるジャンルの国際会議を任される存在に。

凄いなぁ。と感服したのはどんな仕事でも、事前に手書きの単語帳を作る作業を欠かさないこと。

例えば、環境問題の仕事では必ずといっていいほど専門用語が出てきます。それは例えネイティブにだとしても覚えるのは難しいはず。

僕らも学校で自分が興味のない物質などの用語を覚えてテストをやりましたよね?それとまさに同じ。永井さんはそういう難しい言葉もすべて英語で覚えて仕事で完璧な仕事をするのです。とんでもない努力と準備が仕事を支えています。

手書きで1つ1つ書き出すのは、専門用語や難解な単語ばかりではないのです。高校レベルの基本単語でも、最適な訳はなにかを探り当てるために、辞書を丁寧に引き続けます。

準備と努力は、裏切らない」。これは永井さんの言葉です。

”ふるさと”をどう訳すのか

長井さんは被災地、浪江町を訪ねました。国連関係者や専門家などと町民の話し合いの場に仕事で呼ばれたためです。

そこでは被災地の方の気持ちを英語で最適に伝わるように訳さなければいけない。

その中でひとつ困っていた単語がありました。それは「ふるさと」です。「ふるさと」という日本的な言葉のニュアンスを表す英語は存在しません。ならばどうしたらいいのか?

その方法は、ひたすら最適な言葉を延々と辞書で引き、当てはめていくこと。

長井さんはこう訳しました。

「Namie as our home.」

asは比較するという意味を持ち、ourはみんなのという意味がある。このことから、「浪江はみんなのかけがえのない町」という意味を込めているものと考えられますね。

このシーンは非常に感動しました。

感想

通訳・長井鞠子さんの仕事への情熱に感動しました。まず同時通訳という仕事の難しさです。なにを話すのか、どんなことが話されるのかはある程度しか想定できないので事前の準備が大切になってきます。しかも、言っている人の気持ちになり、常に最適な語句を探していかなければならない。その処理の大変さは常人には想像できません。

翻訳家は時間をかけて訳せるのだが、同時通訳には時間がない。常に一瞬で判断する。

政治の仕事では国に影響することを考えると、プレッシャーもかかるでしょうし。

「言葉が国境を超える。」

そんなことをリアルタイムで可能にしている同時通訳という仕事は、不安定な時代だからこそもっと必要とされる仕事になりそうですね。

プロフェッショナル仕事の流儀 – 長井鞠子

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